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絵本の中の記憶

子どもの記憶力には驚かされます。大人の記憶とは比べものにならないくらいのスピードで記憶していく目の前の子どもに「この子って天才?」と誤解してしまいがちです。息子が2才の頃、絵本の文章をスラスラと読み聞かせしてくれた時、もれなく思いました。「この子ってもしかして??」と。 

 

ただ、記憶力もすごいのですが、忘れていく速度の速いこと。4才の息子の忘れる速度は、3才の時よりも格段に速くなっています。半年前に大好きだった人のことも忘れています。あいさつした後、「あれ誰?」と大声で言われ、ひや汗をかきます。それだけ今蓄積していっている物事が多いということなのでしょう。2才の頃天才児並みに覚えていたトーマスの登場人物たちは少しずつ忘れられていき、今はカーズの登場人物たちに取って代わられています。そんな息子ですが、絵本のことはあまり忘れていないようです。何度も何度も読んだものはどうも覚えているらしいのです。もちろん昔のように、スラスラと読み聞かせてはくれませんが、内容や登場人物が頭の中に残っているようなのです。

 

私自身は幼い頃の記憶がほぼありません。ところが、絵本屋を始めて、たくさんの絵本に触れる中で、小さい頃のふとしたことを思い出すようになったのです。人気絵本ではなく、もうどこの本屋さんにも置かれていないような絵本を手に取った時にそれは起こりました。小さな頃に一度卒業し、大人になった今までまったく目にしなかった絵本。でも自分にとっては宝物だった絵本に再開すると、なつかしい風景がじわじわと溢れてきました。たくさんの絵本を整理しながら、そんな絵本に時々再開し、思い出がにじみます。絵本はふしぎな力を持っているなと感じる瞬間です。

 

ちぇすなっとで店番をしていると、子どもを連れてきたはずのお母さんやお父さんのテンションが急に上がる瞬間を目撃します。「これ家にあったー」という言葉と共に、本棚に気持ちが吸い込まれていくような、引力を感じる瞬間です。昔小さかった時に読んだ絵本。大好きだった絵本。その絵本と、子どもが生まれた後、たくさん再会したことと思います。でもまだまだ忘れていた絵本があったのです。そんな記憶の片隅にあった絵本を手にした時の熱量、はんぱありません。それはきっと絵本の中にある記憶。自分の頭の中の記憶からは排除されていた、でも絵本を手にした時にそれが戻ってきた、そんな瞬間です。ネットでタイトルを検索して本を買うのとはまた違った、本屋で本を選ぶ醍醐味だなとそんな光景をみていて思います。そして古本屋には、誰かにとっての宝物絵本がたくさん眠っているはずです。

 

そんな時、絵本の古本屋さんになってよかったなと思うのです。